プレス情報
2023年11月 JCM REPORT
新コンクリートのはなし
第9回 定期点検で早期に予防保全を
近未来コンクリート研究会 代表 十河茂幸
早めの点検で劣化を予測して、必要な対策を講じる方が安価に延命化を図れることになります。劣化をしているのを見つけて事後保全するのでは、補修が大掛かりになるからです。特に鉄筋コンクリート構造物では、ひび割れを発見したときは、すでに鉄筋の腐食膨張が激しくなっています。そのための補修は、場合によっては補強が必要となるほどです。今回は、予防保全を目的とした点検の要領を解説します。
■鉄筋コンクリート構造物の劣化のメカニズム コンクリート自体は永久構造物と言っても過言ではないと考えられますが、内部の鉄筋が腐食すると、腐食膨張を生じてかぶり部分のコンクリートにひび割れを生じさせ、ついには剥落が生じます。つまり、鉄筋コンクリート構造物は、鉄筋の腐食で寿命が存在します。写真は、劣化した橋梁の姿です。
塩化物イオンの侵入や、中性化による影響は、コンクリート自体が劣化するのではなく、腐食環境となることが問題です。腐食環境になると、鉄が腐食するための酸素と水があれば次第に腐食していきます。そのメカニズムは図のとおりです。
■塩害による劣化の進行過程 塩化物イオンがコンクリート内部に浸透してもコンクリート自体は健全です。中性化が生じてもコンクリート自体はむしろ強度は高まるとされています。しかし、高アルカリ下で不動態皮膜がつくられ腐食から守られていた鉄筋も、塩化物イオン濃度が高まると不動態皮膜が破壊され、図1に示すように腐食が進行します。また、中性化が進行すると、同様に腐食環境になります。
これらの劣化進行過程を、潜伏期、進展期、加速期、劣化期と区分していますが、鉄筋の腐食膨張で劣化によるひび割れが生じるのは、加速期からです(図2参照)。
鉄筋の腐食膨張によるひび割れが生じる前に発見するのが予防保全と言えますが、外観上は何も変化がないので、予防保全段階で劣化の兆候を掴むのは、塩化物イオン濃度の程度や中性化深さがどこまで進んだかを調べなければなりません。
■見えない劣化を見つけるための点検 劣化によるひび割れが生じる前の段階、つまり鉄筋位置が塩化物イオン濃度の限界を迎える前に見つけるには、塩化物イオン濃度分布を調査することが必要です。そのためには、ドリル法で深さ方向の塩化物イオン濃度の分布を測定しなければなりません。中性化についても同様に中性化深さを測定しなければなりません。
塩化物イオン濃度の測定には、ドリル粉末を用いた簡易塩化物イオン測定装置が使えます。中性化深さの測定には、ドリル粉末でフェノールフタレイン溶液が呈色するまでの深さから判断できます。それらの測定結果から将来予測をすることで、延命化のための措置を考えることが必要です。
■点検結果の判断方法 塩化物イオン濃度が限界に達しても、腐食環境になるだけで劣化は生じません。鉄筋の腐食には酸素と水が必要だからです。したがって、防水工をすれば、劣化の進行は遅くなります。早めの点検で劣化を予防できる対策が取れると安価な延命策が可能になります。どのような対策を講じられるかの判断はコンクリート診断士の判断に任せるとして、予防保全を行うことは構造物の延命化に効果的です。
【参考文献】
1)近未来コンクリート研究会編:小規模橋梁の簡易点検要領(案)、令和2年5月
2)コンクリートメンテナンス協会編:コンクリート構造物を対象とした亜硝酸リチウムによる補修の設計・施工指針(案)、2020年4月