プレス情報
2022年7月 JCM REPORT
新コンクリートのはなし
第3回 施工段階で生じる不具合の予防策
近未来コンクリート研究会 代表 十河茂幸
コンクリートの施工は、さまざまな環境下で行われます。例えば、夏期の暑い時期や、冬季の寒い時期に施工され、また、断面の厚い部材もあれば、配筋が困難な薄い部材もあります。そこで、それぞれの条件に適合するコンクリートを製造し、運搬し、それを施工するのですが、それでも何らかの不具合が生じることが多々あります。今回は、施工段階で防止可能な不具合対策について解説します。
■施工段階で生じやすい不具合 コンクリートの施工時の不備で、不具合が生じることがまれにあります。思いがけない不具合にびっくりしないように、あらかじめ計画を確認して事に当たりたいところです。不具合の事例としては、初期ひび割れが生じる事例が最も多いのですが、豆板や空洞、コールドジョイント、沈みひび割れ、表面気泡などが生じる事例もあります。
豆板は、粗骨材が集まってできる未充填箇所です。コールドジョイントは、打ち重ねる場合に前の層の上に打ち重ねるコンクリートの時間が経過したときのできる一体とならない状態です。沈みひび割れは、ブリーディング水の上昇により沈降が生じた場合に鉄筋の上部で発生するときと、段差のある箇所で、連続して打ち上げた場合に生じるときがあります。表面気泡は斜面の型枠で生じやすく、大きな気泡が不具合とみなされます。
■初期ひび割れの予防 初期ひび割れには、乾燥収縮ひび割れと温度ひび割れがあります。乾燥には時間がかかるため、供用後にクレームとして扱われることがありますが、温度ひび割れは水和熱が外気温と同等に下がった時期に生じるため、ほとんど竣工前に発見されます。
これらの対策は、収縮を低減することで抑制できますが、対策を講じても防止とまでにいかないのが通常です。収縮の原因は、セメントの硬化収縮、乾燥収縮およびコンクリートの温度収縮などがあります。乾燥収縮はコンクリートが乾燥するのを防ぐことが対策となり、温度収縮は、セメントの発熱を抑制することが対策となるため、単位セメント量を低減すると小さくなります。なお、施工時にできる対策もあり、内部と外部の温度差を付けないことが温度ひび割れに効果的であるため、初期養生時に保温することが望ましいと言えます。冷やすと危険になる場合が多いようです。
■沈みひび割れの予防 沈みひび割れは、コンクリートのブリーディング水の上昇に伴う沈降が原因となります。沈みひび割れが沈下量の差で生じるため、梁下でいったん打ち止める行為がひび割れの発生を防ぐこと。鉄筋の上部に生じた沈みひび割れはブリーディングが収束した段階でタンピング(再振動)して修復することで収まることはよく知られています。しかし、型枠面に生じる沈みひび割れは、ブリーディングが生じる限り発生を余儀なくされます。生コンの発注段階で抑制するほかは方法がないようです。型枠面に沈みひび割れが生じるのはブリーディング率が大きい場合とみなされ、ブリーディング率が大きい場合とみなされ、ブリーディング率の小さいコンクリートを供給してもらうように生コン工場に相談するとよいでしょう。
コールドジョイントの予防 打ち重ね時間間隔が夏期2時間~冬期2.5時間以上かかると、コールドジョイントの発生する可能性が高くなります。不慮の事態を想定すると、打ち重ね時間間隔はできるだけ短く計画することが重要となります。コールドジョイントが発生すると上下のコンクリートが一体となっていないことから、打ち継ぎの処理と同様の対策が必要となりますが、前層の締固めが不十分であると締固め不足のコンクリートが存在することになります。打ち重ね時間間隔が長くなるような不慮の事態に遭遇すると、前層のコンクリートを十分に締め固めておくことが必要です。
表面気泡の防止 斜面の型枠面では、振動締固めを行うと気泡が上昇し、型枠面に付着します。斜面では、気泡が上面に出難いことが容易に想像できます。斜面の型枠面では、気泡を上部に排出するようにゆっくり打ち上げることが望ましいのですが、近年の施工速度を考えると難しい対応です。斜面型枠面では、締固めをするほど表面の気泡が顕著になるという皮肉なことになります。
不具合を初期欠陥としないために 様々な原因で発生する不具合があります。原因を取り去ることが予防的な措置として重要ですが、やむを得ずできてしまった不具合も適切な措置を講ずれば、初期欠陥とはみなされないはずです。初期欠陥を生じさせないことが耐久性の高いコンクリート構造物を構築することになりますので、適切な補修も考慮しておきましょう。
【参考文献】
1)十河茂幸ほか:現場で役立つコンクリート名人養成講座改訂版、日経コンストラクション編、2008.10