プレス情報
2023年9月 JCM REPORT
新コンクリートのはなし
第8回 冷やすと危険な散水養生
近未来コンクリート研究会 代表 十河茂幸
コンクリートは、セメントの水和反応で成長する材料です。水和反応は、セメントの湿潤養生で反応率が変わります。水分をたっぷり与えると水和が進み、反応ですから温度も影響します。適温で水分を十分に与えることが望ましいと言えます。今回は、コンクリートの養生方法について解説します。
■コンクリートの養生の基本 コンクリートの養生は、セメントの水和反応を促進することが目的ですが、それは、硬化する前に外力が作用すると壊れてしまうからです。つまり、外力に抵抗できるまでは養生を行うことが必要です。その養生とは、水和反応をさせるために、水分を十分に与えることですが、小さな供試体と異なり、実際の部材では表面のみしか水分が届かないため、湿潤養生は保水が目的となり、乾燥を防止することが必要となります。基本的に型枠のある面は乾燥しにくいため封緘養生となり、水の出入りのない状態で、どの程度の養生日数を確保するかが必要な養生期間となります。それは、強度が確保されるまでの期間であり、セメントの種類で異なります(表1参照)。また、この期間は温度によっても異なることになります。
■養生方法のいろいろ 養生方法としては、湛水養生、散水養生、被膜養生、保湿養生、保温養生、断熱養生、蒸気養生、高温高圧養生などがあります。また、供試体の養生方法としては、標準養生として水中で20±2℃の条件で継続する方法と、水の出入りのない封緘養生とする方法があります。標準養生は理想的な水分を与えられる方法で、構造物の供用期間中の強度を、例えば普通コンクリートであれば材齢28日で早期に判定するためのものです。これに対して、封緘養生で行うと、構造物のコアの部分の強度発現を想定できると考えられます。
湿潤養生を行うことを推奨しているのは、乾燥しやすい表面部分つまりかぶり部分の強度を確保し、耐久性の確保が目的と考えてよいと言えます。
■封緘養生は構造物の強度を想定 水中養生した場合の強度発現と、封緘養生した場合の強度発現を比較した事例を図1に示します。これで分かることは、標準養生の材齢28日の強度が、封緘養生した材齢91日の強度とほぼ同等であるとみなせることです。つまり、91日は、供用期間とみなせることで、供用時の強度を標準養生の材齢28日で早期判定していると言えます。標準養生の材齢28日の強度を管理材齢としていることは、供用時の強度を管理するためです。
■ひび割れ抑制のための養生 養生の不備でひび割れが発生する恐れがあります。乾燥収縮ひび割れは乾燥収縮の抑制のため、十分な湿潤養生を行うことが予防的な措置として考えられます。乾燥収縮するのは材料の特性であり、養生の違いは影響が小さいと考えられます。これに対して水和熱に伴う温度ひび割れに対しては、温度に対する保温養生が効果的です(図2参照)。保温養生は、内外の温度差が小さくなり、温度応力の低減に効果的です。マッシブな部材の場合は、保温養生をできるだけ長い期間継続することが望まれます。
■冷やすと危険な散水養生 養生としては、水分の供給と適切な温度管理が重要です。しかし、型枠を外した後に、養生を継続しなければならない場合に、養生を継続するため散水するとその水の温度が外気より低くなる夏期には表面を冷やすことになります。コンクリート表面を冷やすと温度差応力が増加して、ひび割れの危険性が増します。特に、夏期に散水養生を行うと、図2に示すようにコンクリートの表面を冷やすことになり、温度ひび割れが生じる危険性が高まります。散水養生の際には、その水の温度についても適切に管理することが重要です。散水養生をする際に冷やすと危険であると考えるべきです。
【参考文献】
1)土木学会編:2017年制定コンクリート標準示方書【施工編】、2018年3月