2019年3月25日 セメント新聞 第308回コンクリートセミナー講演概要<下> | プレスリリース | プレス情報 | 近未来コンクリート研究会は、インフラを適切に維持管理することを推進する支援をするとともに、これから建設されるコンクリート構造物を長寿命化するための研究を行います。

プレス情報

2019年3月25日 セメント新聞

第308回コンクリートセミナー講演概要<下>
「インフラ点検技術者育成」岡﨑氏
「劣化予測に基づく対策検討」角田氏
「望まれる補修設計の確立」十河氏

2019年3月25日 セメント新聞 第308回コンクリートセミナー講演概要<下> | プレスリリース | 近未来コンクリート研究会

四国におけるインフラの維持管理

 香川大学の岡﨑慎一郎准教授は「四国におけるインフラの維持管理と新技術の実装への取り組み」と題して講演。内閣府の創造的イノベーション戦略プログラム(SIP)の「インフラ維持管理・更新・マネジメント技術」(SIPインフラ)の成果物である新技術をいかに地方で実装していくかという課題について解説した。SIPインフラは地方の大学を拠点に「地域実装支援チーム」を組織し、四国は愛媛大学の全邦釘准教授がリーダーを務め、岡﨑氏も参加している。「SIP(の成果物)に限らず、良い技術をいかに地域で地域で使っていくかということに3年間取り組んできた。SIPインフラは今年度までで、今後どうしていくかが悩みどころ」と率直な感想を披露した。
 香川大のメンバーはインフラの劣化に大きな影響を及ぼす水の関与をいかになくすかを中心に取り組んだ。具体井的に国土交通省から点検データを提供してもらい、それを基に劣化進行の予測と要因分析を行った事例を紹介した。SIPインフラの取り組みで開発が進展した非破壊による検査方法にも言及し、香川大では「軽量で高精度な小型近赤外分光装置による塩化物イオン・水分含有量の計測の実現」を図っている。さらに「地方自治体が管理する道路橋には図面がないものもある」とし自動復元設計システムの開発も進めている。
 インフラを点検する技術者育成も重要で、四国では愛媛大学がメンテナンスエキスパート(ME)の養成に努め、文部科学省からの助成も得て「四国ME認定証」を発行している。香川大学や徳島大学も2日間の「橋梁メンテナンスエキスパート養成プログラム」を実施しているが、「四国4県一体で取り組み必要があり、認定証を得るには愛媛大学で講義を受けねばならない。サテライトを設けるなど、遠隔地にいても取得可能なプログラムを開発できれば」と今後の課題を示した。

高速道路資産の点検から保全

 西日本高速道路メンテナンス中国の角田直行社長は「高速道路資産の点検から保全の現状と今後」について講演。コンクリート橋の劣化の要因とメカニズムを解説し、保全点検システム高度化による補修シナリオの構築に向けた技術開発の動向を紹介した。さらに更新や修繕における留意点、新規構造物の長寿命化に向けた取り組み事例にも言及した。
 保全点検は確実に変状をとらえ、いかに資産の状態把握をしていくかが重要と指摘。5年周期での詳細点検だけでなく、状態を常時把握するためのシステム構築に取り組み、詳細の劣化予測に基づく対応策の検討も進めているという。「劣化曲線を予測して、劣化の進行をモニタリングし、補修を行った場合の効果を確認する」取り組みを行っている。
 大規模改修・修繕に関しては「耐久性のある革新的材料の使用」を進め、「お客様にできるだけご迷惑をかけないような」更新・修繕方法も導入している。具体的にはプレキャストプレストレストコンクリート床版やプレキャスト壁高欄の採用を進めており、床版の継手構造は従来のループ継手から、鉄筋の端部に鋼製バンドを圧着したエンドバンド鉄筋継手に変更している。
 新規構造物は「鉄を使わない橋梁」による高耐久化を図っている。三井住友建設と共同でアラミドFRPロッドを使用した超高耐久橋梁や超高耐久床版を開発。今年度、徳島自動車道の本線で30メートルのスパンに超高耐久橋梁を適用したことを紹介した。

コンクリート構造物の延命化

 近未来コンクリート研究会の十河茂幸代表は「コンクリート構造物の延命化の課題と展望」と題して講演。「コンクリート構造物はメンテナンスフリーで、半永久的に使い続けていくことをコンセプトにすべきだと今でも思っている」としつつ、様々な劣化要因を抱えている中で「これまでつくってきたものはきちっと維持管理して延命化を図る必要がある」と述べた。
 そうした前置きを踏まえてインフラの老朽化の現状や各種の劣化要因と劣化進行、予防保全の考え方、点検・診断や補修・補強のあり方などを解説した。「コンクリート構造物は劣化因子が多い」うえ、構造物がおかれた自然環境や使用環境、さらに構造物そのものの耐力を考慮する必要があるが、過去の耐久設計では不十分だったと指摘。「これからは維持管理や補修設計が必要なものの、個人的には補修設計が確立できていないことが課題だと思う」と述べた。
 予防保全は「外観上は損傷が現れていない」状態、つまり土木学会のコンクリート標準示方書[維持管理論]によれば潜伏期あるいは進展期に劣化因子の進行を止めること定義。予防保全と点検・診断の重要性を強調し、点検では5年に一度などの定期点検の大切さを訴えた。「健康診断のようなもので、健康なはずの構造物の劣化を予測する」ために岡﨑氏が紹介したMEのような人員をいかに養成していくかと課題を提起した。
 小規模橋梁の点検を進めるに当たり、カルテの作成を提案。同時に小規模橋梁を対象とする点検・診断マニュアルの作成に取り組んでいることも紹介した。
 なおコンクリート診断士による診断は「私自身が診断士の資格を取得しているが、正直自信がない。セカンドオピニオンというか、各地の診断士会のようなところで複数の診断士が協議することが望ましい」との考えを示した。一方でコンクリート診断士は昨年4月1日時点の登録者数が1万2940人で、うち埼玉、千葉、東京、神奈川の1都3県合計で3923人、3割を占めており「地方は圧倒的に足りない」と指摘。「たくさんの人がMEの認定を受けて、診断士の資格を取得し、我が国のインフラを守る仕事をしていただくことを期待している」と訴えた。